いけだ・あつし●2004年入社。経営企画本部 事業企画部 事業企画課 主任。千葉商科大学商経学部経済学科卒業。成田空港の近くで生まれ育つ。飛行機が飛んでいることが日常であり、家族をはじめ、周囲に空港で働く人が多かったことから、「国内旅客機発着数ナンバー1の羽田空港を、より便利で楽しい施設にしたい」と考え、現社への入社を決意。
免税店勤務で現場を3年間経験。店舗運営の基本を学んだのち、グループ会社で人事管理を担当
日本空港ビルデングは、羽田空港旅客ターミナルビルの建設や管理運営、物品販売および各種サービスの提供を事業基盤とし、成田国際空港(千葉)、中部国際空港(愛知)、関西国際空港(大阪)といった各拠点での物品販売や免税品の卸売なども展開している。空港の近くで育ち、幼いころから航空業界で働くことに憧れていたという池田さん。入社後、3カ月間の新人研修を経たのち、大阪営業所に配属。関西国際空港の免税店で物販販売員として3年間の現場経験を積むことに。
「関西は行ったことがなく、最初は見知らぬ土地に行くことに不安を感じましたが、実際に勤務してみたら、関西ならではの気さくなコミュニケーションが楽しくて、接客販売にはすぐ慣れました。一方、難しかったのは商品の管理ですね。免税店ではさまざまな規制がある中での販売となりますが、特に商品の在庫管理が重要で、定期的に在庫数を各関係機関へ報告しなければなりません。店舗ごとに商品の在庫数を報告する必要があるため、免税店間で商品を移動する場合にも、移動記録の作成が必要。『免税店の特殊性と商品管理の厳重さ』に驚きました」
池田さんが勤務する店舗には、マネージャーとリーダーがおり、指導担当の先輩と池田さんは3番手のポジションで、ほかにはアルバイトスタッフ。そのため、販売員としての役割だけでなく、店舗運営の多くを任されたという。
「店舗には売上目標があり、その目標を達成するための施策を考えることの重要性を感じました。化粧品やタバコ、酒、お菓子類などの商品ジャンルごとの売り上げ目標の設定、商品の陳列方法やスタッフの管理、商品を卸してもらう取引先との折衝まで、任せてもらえたので、すごくやりがいがありました」
当時、人気のあったデジタルカメラは在庫切れになることも多かったのだ。例えば、「売りたいのに売れない」状況の改善。
「発注数を増やしたとしても、売れ残ってしまったらその分の在庫を抱えることになるため、根本的な解決にはなりません。販売数と在庫数の状況を分析し、他店との在庫調整に加え、取引先と発注数の見直しや返品の交渉も行うなど適正在庫の維持に努めました。また、店頭でのセールストークを考えてスタッフに指導したり、わかりやすいPOPを作るなどもしましたね。この3年間は、先輩と一緒に考えたことを実践しながら、店舗運営や店作りの基礎を学んだ時期でした」
入社4年目、日本空港ビルデングの直営物販店舗を運営しているグループ会社である羽田エアポートエンタープライズに出向することになり、管理部総務課に配属される。
「人事管理を担当すると聞き、これまでの業務とは違うので、自分に本当にできるのかが不安でしたね。最初のうちはアルバイトの採用や給与計算、社会保険の手続きなどを担当しましたが、給与計算システムに入力しようにも、計算方法などでわからないことが多く、人事制度や各給与項目の仕組み、用語などを一つひとつ理解することに苦労しました」
給与計算では、時給や時間数、超過勤務手当などの支給項目の計算だけでなく、税金や社会保険料などの控除項目についても、細かい部分まで把握しなければならないという。
「1円でもずれていれば、『どういう理由でずれているのか』をさかのぼってチェックしなければなりませんので、慣れるまでは本当に大変でしたね。また、アルバイトを採用する際には、フルタイムで働きたい人、配偶者控除の範囲内(※)で働きたい人、働ける時間帯に制限がある人など、応募者の希望と配属先となる店舗側の条件をすりあわせる難しさも実感しました」
(※)世帯主の所得税を計算する際、配偶者の給料が年間103万円以下の場合、扶養の範囲内として所得控除が適用となる
指導担当の先輩が異動し、関係機関への手続き・届け出も担当することになるが、羽田空港に新国際線旅客ターミナルがオープンする際には大きな苦労があったという。
「スタッフが空港内の制限エリアに入るために1日単位でパスを申請しますが、そのパスの申請方法が正式に決まったのは国際線オープン間近! シフトは1日ごとに変化しますから、毎日100名以上の方の名前や勤務シフトを登録し、申請するわけです。さらに、許可が下りたらその分のパスカードと許可書類をセットで準備しなくてはならず、『オープン日には絶対に間に合わせなければならない中、社員総動員でオープン当日の朝まで必死に準備を続けることに。スタッフがそろいオープンの環境が整った時には、本当にホッとしました(笑)」
羽田空港内の施設計画について、設計事務所との打ち合わせを行う。
入社8年目で航空会社に出向することに、「お客さまのため」を実感。現在は事業企画に携わる
入社8年目、池田さんは航空会社に出向することになり、カスタマーサポートを手がける部署に配属される。
「正直、仕事に対応できるか不安でした。最初に担当したのは、車椅子の手配など、お手伝いが必要なお客さまに向けたサポート窓口。電話で相談に乗るだけでなく、ご搭乗手段の調整、機内サービスのリクエストの受け付けから、関連部署への手配など必要な手続きをすべて手がけるというものでした」
お客さまからのお問い合わせの中には、病院から「早急に患者を転院させたいが、ストレッチャーで搬送できるのか」など緊急を要するものもあり、その内容は実に幅広いものでした。
「配属当初の3カ月間は、専門用語に慣れるのに四苦八苦しました。渡されたマニュアルをひたすら覚えながら、お客さまの対応も並行しなければならず、とにかく必死。また、顧客情報管理、航空券予約情報、HPなどの情報端末ごとにシステムが異なり、特にコマンド(キーボードの操作)入力には苦労しました。画面上に手順が表示されるわけではないので、必要なコマンドはすべて暗記しておくことが大前提で、お客さまのお話を聞きながら、端末にコマンド入力していくことが応対の基本でした。慣れるまでは本当に大変でしたね」
また、空港を出発するところから、到着した空港の出口まで、スムーズで安心できる旅を実現させる手配を行うため、関係部署とも細かな連携を取った。
「航空機には細かな規定がたくさんあります。例えば、電動車椅子を機体に持ち込む場合には、バッテリーの品目までチェックして規定をクリアしているかを確認します。機体によって車椅子の受け入れ数や、コンテナの大きさも異なるため、それも把握したうえで手配します。また、『飛行中に座席まで水を運んでほしい』などの機内サービスのリクエストがあった場合にはCA(キャビンアテンダント)に事前に伝えておく必要があります。リクエスト内容を事細かに予約情報に反映し、各関係者向けて事前に発信することで、スムーズな対応を実現し、お客さまの心配を安心にかえることが“お客さまのため”になっていることが実感できました。
異動から2年目、池田さんはお客さまからのご意見やご要望を受け付ける窓口の担当に。電話とメールで対応し、それらを社内に周知します。お客さまのご意見を検討し、改善に向けて、社内部署と調整していく仕事でした。
「多種多様のご意見をいただきましたが、当初はとにかくお詫びをと思っていました。しかし、ある時、『お前の対応が悪い。責任者に代われ』というお客さまがいらっしゃいました。上司に事情を伝え、対応を代わってもらうとすぐ、ご納得いただけたことで、対応方法の違いを痛感。この出来事がきっかけとなって、常にお客さまのご意見・ご要望を会社の課題として捉え、相手の意を酌みながら、伝えるべきことを伝えなくてはいけないのだと考えるようになりました」
これまでに学んだ業務知識を駆使した改善策をお客さまにご理解いただくと同時に、現場の状況の視察やヒアリングなども行い、最大限の対応を真摯(しんし)に続けた。
「お客さまの要望を改善につなげるための提案も考え、レポートを作成するだけでなく、関係部署に改善したかどうかのチェックまで行いましたね。どの部署もお客さまの声には迅速に対応し、課題を早急に改善していくことに、“お客さま第一”を掲げる航空会社の組織の強さを体感できたことは、自分にとって非常にいい経験になったと思います」
2014年、池田さんは現部署である事業企画部に異動し、羽田空港第1旅客ターミナルビルの改修計画や、テナントの誘致、将来の羽田空港周辺の開発計画などに携わっている。
「空港近くの多摩川沿いに設置している船着場の管理や活用策の考案なども手がけています。現在の計画から将来的なものまで含めて、羽田空港に係る施設の改修計画・立案に携わっていると言えばわかりやすいかもしれませんね。第1旅客ターミナルビルのテナント誘致では、自分の考えたことが形になる面白さを実感しています。これまでの経験を生かし、多くの人の意見や視点を取り入れ、課題と改善策を模索しながら、“お客さまのためにどんなものを実現していくか”という創造力を働かせていこうと思います」
船着き場の管理も行うため、清掃や設備のチェックも手がける。毎週日曜には定期航路で船が発着するので、発着時間のわかる看板の掛け替えを行う。この看板も池田さん自身が考案。
池田さんのキャリアステップ
STEP1 2004年4月 研修時代(入社1年目)
入社後、会社の事業やグループ会社の概要を学ぶ1週間の研修を受けたのち、3カ月間の営業所研修へ。羽田、成田、関西の各空港を1カ月ごとに回り、現場の店舗スタッフとして販売を経験。「羽田では和菓子店、成田と大阪では免税店に配置されました。当社のCS(顧客満足)理念は、『訪れる人に安らぎを、去り行く人に幸せを』ですが、まさにそれを現場で実感。どの店舗でも、お出迎えの『いらっしゃいませ』から、最後のお見送りまで、丁寧な対応をし、お客さま目線のサービスの大切さを学ぶことができましたね。商品説明をし、気に入ってもらい、ご購入していただくうれしさ、お客さまから『ありがとう』を頂戴する喜びを感じた研修でした」。この後、関西国際空港の免税店に配属されるが、お客さまとコミュニケーションを重ねる中、「丁寧でわかりやすい商品説明の重要性を実感。「中国、台湾、香港を行き来する便も多かったため、中国語の接客用語も学びました。航空機の出発が集中し混雑する時間帯は、なるべくお客さまに状況説明をするよう心がけましたが、うまく通じないことも多く、通訳できるスタッフに助けてもらうことも多かったですね(笑)」。
STEP2 2007年7月 羽田エアポートエンタープライズ出向時代(入社4年目)
管理部総務課で人事管理や社員採用、アルバイトの管理などを担当。社員採用では、各学校の就職課を訪問し、積極的に会社をPRし働きかけていった。「あの時に採用した方々が、今も働き続けてくれていて、うれしく思います」。
また、東日本大震災の当日、混乱する羽田空港の中をスタッフと一緒に奔走(ほんそう)し、お客さまに毛布や水、乾パンなどを届ける対応をしたことが、のちの仕事にも大きく影響を与えたという。「交通がすべて麻痺(まひ)するほどの出来事は、誰にとっても初めての経験で、適切なご案内をするためには、現場にいた僕らが臨機応変に動くしかありませんでした。空港にいたスタッフみんなで力を合わせ、始発が動くまでお客さまへの対応を続け、飲まず食わずでひたすら走り回った。あの時、交通機関がどれだけ重要かということを痛感し、空港が果たしている役割を実感。そして、空港を安全に管理していく重要性を強く意識するようになりました」。
STEP3 2011年 航空会社出向時代(入社8年目)
お手伝いが必要なお客さま向けのサポートデスクを1年経験。病院間の患者搬送の手配なども手がけ、命にかかわる患者の対応も行ったところ、「スムーズな対応をありがとう」というお客さまからお礼の手紙をもらったことも。
異動2年目には、航空会社に対するご意見やご要望を受け付ける電話窓口を経験。ご意見を聞くだけではなく、改善・解決策を考えることが大事だと痛感した後には、自ら積極的に改善策を模索するようになる。例えば、『優先搭乗できるはずなのに、行列ができていて優先されなかった』というご意見に対しては、現場の状況を確認し原因を探り、過去のレポートから同じような案件をチェックして対応策を考えました。「業務がわかれば、お客さまのご意見に対してもしっかり答えることができます。自分が経験したことのない現場であっても、その業務内容を理解し、お客さまの意を酌みながらも伝えるべきことを真摯に伝えていくことが大事だと実感しました」。
STEP4 2013年 事業企画部 事業企画課時代(入社10年目)
旅客ターミナルビルの施設改修計画や、テナントの誘致、将来の羽田空港に係る施設の開発計画の立案、多摩川沿いの船着場事業などに携わる。羽田空港第1旅客ターミナルビルのテナントを誘致した際には、取引先との条件交渉から工事日程の策定、工程管理までを手がけた。また、東日本大震災以降、防災拠点としての機能も果たす船着場事業が立ち上がったが、池田さん自身が痛感した思いを基に、防災拠点としての役割を果たす仕組みを考えたり、地元の漁業組合の方にも緊急時には協力していただけるように連携もしているという。
「船着場は、これまでチャーター便のみの運航でしたが、毎週日曜日、定期船の運航も開始されましたので、今後どのように活用していくかを模索しています。ビールなどが飲み放題のクルージングツアーを企画・実施していますね。お客さまにはご好評をいただきました。羽田空港の改修計画についても、バス乗り場の混雑をどう解消するかを考えたり、『世界一のトイレをつくろう』という構想を練ったりしています。大きなプロジェクトは億単位の資金が必要ですし、多くの方からご意見を聞き、いかにそれを具現化していくことが重要と考えています」。
ある日のスケジュール
プライベート
会社の先輩や同期とはよく飲みに行くほど仲がいい。写真は、富士山登山に参加した時のもの。「仲のいい先輩と一緒に挑戦したが、8合目でダウンしてしまいました(笑)」。
学生時代から野球を続け、空港ビルの草野球チームに所属。「試合は春、夏、秋に1回ずつ。どちらかというと、終わった後に飲むことの方が楽しみなんです(笑)」。
現在、4歳と1歳の2人の子どもがおり、休みの日は子どもたちと遊ぶことに費やしている。写真は近所の公園に出かけた時のもの。「平日はあまり時間がないので、休みの日は目いっぱい子どもと遊ぶようにしています」。
取材・文/上野真理子 撮影/刑部友康