子育てが落ち着く10年後、やりたい仕事に挑戦できる自分でいたい
インターネットを活用した市場調査のリーディングカンパニーとして、2000年に誕生したマクロミル。岡田さんが入社した2006年当時、ネットリサーチの認知度は高まりつつあったものの、まだまだ普及率は低かったと言う。
「消費者購買動向の調査や購買の履歴データを提供したり、海外マーケットを調査したりと、マーケティング戦略を考える上での貴重なデータを収集、分析。その数字を基に商品開発や販促提案などコンサルティングを行うのがマクロミルの仕事です。入社1年目で営業に配属になり、既存顧客の引き継ぎと新規開拓を同時に担当しましたが、誰もが知っている大手メーカーとそれまで一度も取引がないなど、それがゆえにネットリサーチに成長の余地を感じました」
岡田さん自身も、ネットリサーチについては無知だった。学生時代は一緒に働く社員、会社の雰囲気を重視して就職活動を行い、同社に興味を持ったのは採用ホームページに載っていた1枚の写真を見たからだった。「10人ほどの社員がみんな笑顔で写っていて、その表情に強くひきつけられて説明会に足を運んだだけ。ネットリサーチがどういうものなのか、実際に仕事をするまでわかりませんでした」と笑う。
「依頼されたことを期日までにきちんと仕上げる」ことが得意だと思っていた岡田さんは、クライアントから依頼されたデータ収集、リサーチを担当するRD(リサーチディレクター)になりたいと思っていた。しかし、入社後研修を経て配属されたのは営業部。人見知りで、お客さまのところに行くたびに、緊張のあまり吐き気を感じたほどだった。
「自分がどんなに頑張っても、最終判断はお客さまであるという営業職は、確実に仕事を終えるRDとは違う難しさがあり、私には向いていないと思っていました」
しかし、1年目から大手企業の部長クラスのお客さまを担当するなど裁量の大きい実践経験を積み、自分なりのコミュニケーションスタイルを確立していく。
「営業は、お客さまの課題や要望に応えつつ、社内のRDやデータの集計分析をするメンバーと折り合いをつけながら仕事を進めていくプロジェクトマネジャーです。2年目以降は、大手広告会社やシンクタンクを担当して、週の終盤に『来週明けには消費者動向データが欲しい』と要望されることもたびたびありました。お客さまとしても急に決まったプレゼンテーションのための数値データを集めなくてはいけない…など切羽詰まっている状況で、営業担当としてはその希望をかなえてあげたい。しかし一方で、社内RDには、通常スケジュールを無視した調査準備やデータ収集など、かなり無理をさせてしまうことになります。お客さまの要望ばかり聞いていては、社内メンバーから信頼を失いますし、社内の都合を優先させすぎるとお客さまは不満を募らせます。難しい状況ですが、お客さまがどうしてもデータが必要だという状況を説明し、事前にRDからの要望(通常より時間がかかること、調査票確認のために必ず連絡が取れるようにしていただくことなど)をお客さまに伝えて協力していただくことを条件に、受けてもらうことも多々ありました。その分、お客さまの要望を優先したあとの仕事では、RDのスケジュールを優先してお客さまに待ってもらったりと、双方をフォローしながらコミュニケーションを重ねていきました」
岡田さんの丁寧なフォロー、こまめな進捗把握は、社内RDからの信頼につながり、「岡田さんが受注してきた案件なら頑張りますよ」と言ってくれるメンバーも増えていったという。
社内分業が基本ゆえ、正確な情報共有は仕事の核となるが、一度、情報の伝達ミスが大きなトラブルを招いたこともあった。マクロミルには、インターネット上で回答したアンケート対象者に対して、個別に会ってヒアリングできるサービスがある。担当していた広告会社から、アンケート対象者10人に対面で話を聞きたいという要望をもらい、実際にどれくらいの対象者に直接ヒアリングできそうか、営業アシスタントと協力してシミュレーションし、「10人集まる」と判断した上で引き受けた。しかし、自身とアシスタントとの間で、お客さまの指定した条件の認識違いが生じたことから、実際には対象者が2人しか集まらなかったのだ。
「お客さまは、大手メーカーから依頼を受けて私たちに依頼してきたので、サンプルが集められないとなると、お客さまとその大手クライアントさまとの信頼関係も崩れかねない。『できない』では済まされない状況でした。必死で、アンケート対象者一人ひとりに電話をかけ、対面でのアンケートに協力いただけない理由を聞いていきました。条件は合うのだけど、子どもが小さくて家をあけられない、という方がいれば託児所をこちらで用意して来てもらいました。可能性のある手段をすべて使い、結果的に8人の方を集めて事態は収束。社内スタッフに“伝えたつもり”でフォローしていなかったことが大トラブルにつながり、あらためて情報共有の大切さを痛感した出来事でした」
現在は、1年の産休・育休を経て、社長秘書として時短勤務中の岡田さん。秘書は、営業時代に鍛えられた「相手の考えていること、要望を察知して動く力」が存分に生かされる職種だと感じている。
「社長は、現在進行中の数多くの事案を抱えながらも、数年後、数十年後の会社の未来図を描いて走り続けています。私の仕事は、社長ができるだけスムーズに仕事を進められるよう、スケジュールを調整し、必要な資料を事前に準備し、常に先回りして動くことです。『今日は13時から打ち合わせだから、事前に軽食を用意しておこう』『前回の打ち合わせから時間がたっているから、議事録をもう一度共有しておこう』など、こうしたら助かるんじゃないかと想像力を働かせます。相手の要望を想定しながらいかに先回りして動くかが重要だった営業の経験が今につながっているなと思いますね」
第2子の出産を控える今は、「何よりも子どもが最優先」と断言する。「育てながらちゃんと働けていることで大満足」と話しつつ、今後のキャリアはこんなふうに見据えていた。
「社長室の室長と話していた時、『5年後、10年後の子育てが落ち着いたときに、この仕事がやりたいと思う何かを作っておくこと、やりたいと思ったことに挑戦させてもらえるような社内の信頼を作っておくことが、今あなたにできること』と言われ、その通りだと思いました。自分の主張を聞いてもらうためには、目の前の仕事、課されたことにきちんと取り組むことが大前提。2度目の産休を終え、また復職したときにどんな仕事に就くか未知数ですが、与えられた環境で常にベストを尽くせる自分でいたいです」
社長秘書として連携している同僚と社長のスケジュールを確認。新たに加わった予定や、変更が生じた内容は常に共有しておく。
社長との打ち合わせで訪問したお客さまを、社長室に通す。お客さまの顔や名前、どんな打ち合わせ内容かなどはすべて把握している。
岡田さんのキャリアステップ
STEP1 入社1年目、営業に配属される
入社後、3カ月の新人研修では、「大学の授業などで行われるアンケート調査にネットリサーチを使ってもらう」というプロジェクトを立ち上げ、同期8人と分業しながら仕事を進める術を学んだ。1年目の7月から3年間、営業に従事。2、3年目には大手広告会社、シンクタンクを担当し、半期に一度の営業部MVPに選ばれた。
STEP2 入社3年目、人事に異動
人事に異動し、新卒、中途採用、社内研修業務を担当する。目の前の数字を上げる営業職から、数年後を見据えた中長期的視点が求められる部署に異動となり、視点の違いに戸惑う。岡田さんにとって、経営者視点で仕事を進める貴重な経験だった。
STEP3 入社7年目、1年間の産休、育休を取得
言葉が通じない赤ちゃんとの日々、「仕事ってなんて楽だったんだろう!」と思うほど、人を産み育てることの大変さを知る。生後8カ月で保育園への入園が決まった時、「こんなに幼い子どもを預けていいのだろうか」と泣きそうになり、もう1年育休を延長すべきか葛藤したという。せっかちで神経質だった性格は、子どもと一緒にいることで、おおらかでゆったり構えられるように変わったそうだ。
STEP4 入社8年目、社長室に配属され、社長秘書として復職
16:30までの時短勤務で働き、社長のスケジュール管理や来客対応、名刺整理などのサポート業務を行っている。社長の考えを聞く機会も多く、経営に近い立場で日々の業務に携わることができるのが非常に刺激的で面白いと感じている。
ある一日のスケジュール
岡田さんのプライベート
保育園からの帰り道。娘が寄り道してもできるだけ付き合うようにしているため、大人の足で10分の帰り道に30分以上かかることもある。傘がお気に入りで、雨の日はうれしそうに手にする。
休日は家の近くの公園へ。体を動かすことが好きな夫と、100円のカラーボールを使って半日遊び倒す娘。かつて岡田さんも遊んでいた公園だが、「子どもと一緒だとただの芝生も遊び場になる。景色が変わりました」。
同期が仲良しの職場。「同い年会」と称した集まりは3~4カ月に一度、開催される。2014年5月には同い年の夫も一緒にBBQで盛り上がった。
取材・文/田中瑠子 撮影/鈴木慶子