入社以来、一貫して惣菜(そうざい)担当。妥協なき商品開発でヒットを生み出す
全国119店舗(2014年7月末時点)を展開。世界中、日本中からバイヤーが厳選した商品を調達したり、自社で開発したりすることで、オリジナリティのある商品を提供し続けているスーパーマーケット、成城石井。小林さんが入社した2002年は、まだ20店舗しかなかったが、扱う商品へのこだわりの強さは昔も今も変わっていない。
「1年目に配属されたのは東急東横店(渋谷)の惣菜グループでした。全店の中でも売り上げ上位を誇る店舗。当時、惣菜課の課長だったのは現在の社長である原でした。陳列されている惣菜は厳しい目でチェックされ、新人でも関係なく指摘が入ります。毎日が真剣勝負で、とても充実していましたね」
1年目の7月には、惣菜売り場を一人で任され、発注業務から担当することに。惣菜を置ける限られたスペースに、何をどう陳列するか。売れ行き動向を見て、どれくらい発注すべきかを考えるのも小林さんの仕事だった。少なく見誤ると、「あのお惣菜、今日は置いていないんですか…」とお客さまをがっかりさせてしまい、販売機会を損失することになり、逆に多く見誤って発注しすぎると、余った商品を値引きすることになり、利益が残らなくなってしまう。毎日、売り上げ数字が示される中、試行錯誤の連続だった。
そんな中、成城石井の商品力の強さを実感する出来事があった。2年目に、商品開発を行う自社惣菜工場セントラルキッチンでの「商品検討会」に参加した時のことだ。この工場では、成城石井のお惣菜を一括して作り、全店舗へ届けている。
「惣菜の新商品開発をしている調理人さんから、『1日工場体験してみたらどうか』と提案されたんです。そして南町田にある工場に自ら足を運んで、ゴーヤチャンプルを開発していた調理人さんから、商品の魅力を説明いただく機会がありました。『このゴーヤチャンプルは、崩れることで具と絡み合う絹豆腐と、しっかり形が残りきゅっと味を引き締める木綿豆腐の両方を使っているからおいしいんだ』とのお話があり、食べてみると、本当においしい! この惣菜は売れるに違いないと思い、発売の際に通常10パックほど発注するところを、100パックもオーダー。成城石井のゴーヤチャンプルが、ほかとは一味違う理由やこだわりをポップにも書いて店頭で売ったところ、ほとんどを定価で売り切ることができました。それまで、売るためにはセールで価格を下げることが必須だと思っていた私にとって、目からうろこが落ちるような体験。商品の魅力をしっかり理解して、きちんと伝えれば定価でも売れるんだ、と実感した出来事でした」
現場を4年経験したのち、ジョブローテーションの一環として営業本部(当時)商品部惣菜課に異動となった小林さん。店舗の売り上げ状況やスタッフの育成まで見るスーパーバイザー(SV)を経験する。
「SVとして約40店舗を担当し、1日3店舗ペースで巡回していました。売り上げが前年比90パーセントだったら、あと10パーセントは何が足りないのか具体的に見ていきます。例えば、朝の時点で惣菜売り場が品薄だった店舗には、前日の発注内容を見直すようにアドバイス。開店時には、魅力的な商品がしっかり並んでいる状態を作ると、お客さまもリピートしてくださるようになります。また、ほかの店舗で売れ行き好調だった商品を多めに陳列するようにし、売り上げを伸ばしたこともありました」
入社8年目には、課長に就任。月2回行われる「商品検討会」に社長や部長と共に参加し、新商品発売の是非を検討する立場になる。商品開発は、長年の経験を積んできた調理人が携わっている。
「商品開発した調理人の皆さんからプレゼンテーションを受け、毎回20品目ほどを試食します。『もう少しこうしたら売れるんじゃないか』といった意見を交わしながら、店頭に置くかどうかを検討していくのです。プロの調理人がアイデアを練って苦労して作り上げた商品に対して否定的な意見を言うのは本当につらい…。でも、お客さまの多くは女性なので、同じ女性として、『このお惣菜をこの値段で買いたいかどうか』という正直な視点はとても大切なんです。みんなで議論し改善しながら生まれた商品を店頭で見て、さらにその商品を手にとってくださるお客さまを見ると、胸が熱くなりますね」
現在は、約8カ月の育休を終え、惣菜課の課長として復職している。産休に入る前は、「これまでのキャリアを捨てることになるかもしれない」という寂しさを感じていたため、課長として復帰できるのは意外でもあり、ありがたくもあったという。
「産休中に、復帰後どういうふうに働きたいか、と人事から電話がかかってきました。転勤のないエリア限定社員という道もあるが、以前と同じ責任あるポジションで仕事ができるなら任せたい、と。私としても、やらせてもらえるなら…という気持ちでいたので非常にうれしかったですね。今、時短勤務で続けられるのは、部長のフォローや、3人のメンバーが理解して支えてくれるから。結婚を控えている女性メンバーもいるので、私がひとつのロールモデルになれればいいなと思っています」
今後、商品開発のあり方にも変化が出てくると話す小林さん。入社後、一貫して携わってきた“成城石井のお惣菜”への思いは強い。
「これまでは、商品開発の調理人の皆さんから提案を受けて、それをジャッジする、という流れがほとんどでしたが、これからは、商品部も調理人と一緒に新商品を開発していくスタイルが主流になっていきます。世界各国、日本全国にバイヤーが足を運び、原材料を選定し輸入している成城石井だからこそ、『この材料を使って、こんな商品を作れないだろうか』と調理人に投げかけることができるのです。『お惣菜は成城石井で』という方を一人でも増やせるように、今まで以上に、お客さまに喜んでもらえる商品を生み出したいですね」
フロア内にある会議スペースで、惣菜課のメンバーと打ち合わせ。店舗の各商品の売れ行きなどを共有する。
各店舗の担当者が一堂に集まる部門会議。月に1回開催され、店舗実績の確認や施策を共有する。今回は、秋に新発売となる肉団子をみんなで試食。
小林さんのキャリアステップ
STEP1 入社1年目、東急東横店惣菜グループに配属される
入社後、約2週間の新人研修を経て、現場配属へ。入社当時はまだ店舗数も少なかったため、同期7人が同じ店舗に配属された。新人は残業しないという社則により、朝7時に出社し、夕方16時には帰路につく。週4回は同期や先輩たちと飲みに行くなど、メンバーみんなの仲が良く、常に笑いがあふれている店舗だった。「社会人ってこんなに楽しいんだ~とびっくりした」という、幸せな毎日。
STEP2 入社5年目、営業本部商品部惣菜課の主任になる
課長と2人の少数精鋭部署で、発売の決まった商品を各店舗に送り込んだり、店舗に販売提案をしたり、チラシを作成したりと売り上げ計画を立案した。
STEP3 入社6年目、同課のスーパーバイザー(SV)を経て、課長に就任
SVとして、担当店舗約40店のスタッフ育成や売り上げ管理を任される。入社当時は店舗数も少なく、店舗内で新人教育ができていたが、1年で約10店舗が新オープンする会社の成長期には、だんだんきめ細やかな教育まではできなくなっていた。そこで、育成だけをしっかり見て指導できるSVの役割も重視されるようになった。その後、課長に就任し新商品開発にも携わる。
STEP4 入社12年目、製造本部商品開発課課長に就任する
長女の妊娠がわかったと同時に、製造本部に異動。商品部よりも仕事の負担が少ないと配慮してもらっての配属だった。「商品検討会」で社長や部長相手に新商品の良さをアピールする、それまでと真逆の立場になり、「この商品は売れない」と言われる側の本当のつらさを知る。
STEP5 約8カ月の産休を取得後、商品本部商品部惣菜課課長として復職
産休中は保育園探しに苦戦し、やりきれない思いをいっぱい抱えた。
時短勤務で復職してからは、仕事の優先順位を常に考えるように。自分でできないと判断した仕事は、部長やメンバーに速やかに協力を依頼することの大切さを学ぶ。「何時までに何をしなくてはいけないか、と時間の有限さを痛感したことで、“頼るところは頼る”ことが、チームとしての仕事の生産性を上げるのだと知りました」。
ある一日のスケジュール
小林さんのプライベート
育休中の2014年2月ごろに、同じく4月に復職を控えている友人(写真左)宅へ遊びに行ったときの一枚。復帰後の働き方や保育園について同じ立場で話ができてありがたかった。
2014年5月に家族と友人と一緒にプチ旅行。千葉に魚料理を食べに行った帰りに立ち寄った。子どもがだいぶ大きくなり、いろいろなところへ行けるようになってきてうれしい。
2014年夏、通っている保育園の夏祭りにじんべえを着せて参加。
取材・文/田中瑠子 撮影/鈴木慶子